ことばの経済学

ことばの経済学

ことばの経済学

とても興味深い一冊だった。ことばがどのような過程を経て力を有するようになるのかを、経済学的観点から指摘している。

経済学観点といっても幅広い。言語のもつ価値、ことばの維持・拡大にかかるコスト、経済発展と言語発展、より広範囲にことばがいきわたるための経済性などについて指摘している。個人的に興味があるのは、言語のもつ価値やことばが幅広い範囲にいきわたるための諸条件についての記述だ。

読んでいて感じたのは、言語そのものの特徴以上に、その言語を使う国の経済・文化レベルが、言語がいきわたる条件として大きい、ということだ。英語が現在グローバルな言語となっているのは、言語として簡単な構造になっているということ以上に、英国や米国の経済面での優位性が大きな要因となっている。

そして、優勝劣敗の構造が言語でも働く、二つの言語がグローバルな言語の地位を競い合うことはほとんどない。仮に均衡状態となったとしても、少しでもそのバランスが崩れればあっという間に片方の言語が優位になるのだろう。その意味では、(一時期もてはやされた)デファクト・スタンダードの概念をもっとも体現しているのは言語なのかもしれない。

そう考えると、日本語というある意味世界レベルで見れば辺境の言語を使っている日本人は、いささか世界的な競争という観点では不利な立場に置かれているようだ。そして、文化レベルが比較的高く、さらに文盲率もほとんどないという国民の状況も、グローバル言語である英語へのスイッチングコストを高める意味で、その辺境性に拍車をかけているのかもしれない。

などなど、いろいろ言語を新しい観点で振り返ることのできた、非常に有意義な一冊だった。