抽象と具体の間

よく言われる「抽象的に考える」と「具体的に考える」。両者に対しての一般的な認識は次のようなものでしょう。

ある概念を一般化、抽象化することは、一方では、込み入ったあいまいな対象を単純化してくっきり浮かび上がらせるというプラスの効果が期待できますが、他方では、具象の世界から多かれ少なかれ離れてしまうので、直感的なイメージ化が難しくなってしまうというマイナスの弊害が危惧されます。「系統樹思考の世界」223ページ

具体化することでイメージできるが、抽象化するとそれができない。ちょっと個人的には抽象化のメリットであげている「あいまいな対象を単純化して浮かび上がらせる」という部分がよくわかりませんが・・・(必ずしも抽象化=単純化というわけでもないでしょう)。

じゃあ、具体的に考えるデメリットは何ですか?と言えば、次の引用に端的に現れているんじゃないでしょうか。

「抽象」というのは、「具体」「具象」の反対語だ。多くの人はこれを「わけのわからないもの」「曖昧なもの」と認識しているが、それは間違いである。目に見えるものの方が実はどうでも良い部分、つまり「装飾」であり、ものごとの価値は、その内部に隠れて見えない「本質」にある。「創るセンス 工作の思考」130ページ

ここでは、「具体的なもの」=装飾としていますが、これまた極端な、という感もないではありません。ただ、なるほどと思えるところも多々あります。

じゃあ、どっちがいいんじゃい、という話にはならないのでしょう。少なくとも上の二つの引用からは、抽象的なことと具体的なことを行ったり来たりする必要があることになると考えています。

ただ、ルールはありそうです。
・考えるとっかかりは具体的なものを対象にする。そうしないとイメージがわかない
・あまり具体的なことばかり考え続けない。具体的なものを考え続けると、いずれ装飾に頭が行ってしまう
・抽象的なことを考えられなくなったら、いったん具体的なものに戻る(そういう意味で「例えば」と代表例を考えてみるのはよさそう)。ただ、上述の通り、あまり具体的なところにとどまらない
てな感じでしょうか。

このように見てみると、頭の使い方のいい人は、抽象的な内容と具体的な内容のいったり来たりのテンポがものすごくよい人なのかもしれません。具体的なことをとっかかりにして、より抽象度の高いレベルまで引き上げて、他への応用を考える。この行ったり来たりのテンポがよいのでしょう。
また、抽象度の度合いにもふれ幅がありそうです。かなり抽象的な次元のことから、少しだけ具体的な事例を抽象化したレベルまで取り扱える。そうした人は頭の使い方がよいのでしょう。「もう少し抽象的に考えよう」というと、大上段に構えてしまって、とんでもなく抽象的なレベルまで行ってしまう人がいますが、抽象化にも幅があって、そこをうまく調整できるとよさそうですね。ただ、周りの人はそれについていくのに結構苦労しそうです。


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