論理関係を構成する最低限の要素

これまでのエントリーで、論理思考は関係をつなぎあわせていく思考であり、その関係には意味関係と論理関係がある、とした。そのうちの一つ論理関係はどのような要素から構成されているのかを整理してみたい。

ただ、丁寧に見ていくと深みにはまるばかりかやぶへび状態になることは目に見えているので、必要最低限で論理関係を成立させるのに必要な要素だけを整理したい。

まず、ここでの「論理関係」は思い切って「狭義の論理」(論理トレーニング)と表現される演繹に絞る。よく演繹と帰納が対比する形で説明されるが、両者は並列の関係にあるのではない。演繹が狭義の論理関係を丁寧にたどることであり、帰納は論理関係をすっとばして推論することで、両者を同じ推論形態として説明するのには違和感がある。こう書くと自分が「演繹主義者だ」であることがバレバレになるが、それはそれで置いておこう。

演繹といっても、その中でさらに押さえるべきポイントが多くなりそうだが、以下の整理で無理やりすっきりさせたい。

  1. 基本は集合関係による関係付け
  2. 集合のパターンによって定言・仮言・選言に分類される
  3. 応用パターンとして否定の概念
  4. 「逆」「裏」「対偶」による応用

それぞれ簡単に見ていこう。
1.基本は集合による関係付け
 簡単に言ってしまえば、演繹(特に三段論法系)は集合の概念ですべて説明可能である。例えば、あまりに平凡な三段論法の例を見てみよう。

 大前提:人間は死ぬ(1)
 小前提:ソクラテスは人間である(2)
 結論:ソクラテスを死ぬ(3)

言葉だけ見ると何と言うことはないが、集合関係を明確にした上で各文を表現しなおすと、次のようになる
 (1)死ぬものの中に人間が含まれている
 (2)人間の中にソクラテスが含まれている
 (3)死ぬものの中にソクラテスが含まれている(のは当然)

ここで集合関係を明確にするコツとして、ある英単語を使えばよい。つまり、
 大前提:All
 小前提:a、the
で表現される。


2.集合のパターンによって定言・仮言・選言に分類される
1で述べたのは定言だが、他にも三段論法は仮言・選言があるとされている。これも難しく考えるのではなく、集合で捉えてみれば至極当然のことをしている。

まず、仮言については、因果関係による推論とほぼ同じ構成である(もし・・・なら〜である)。これも集合関係の応用編である(「結果を生み出すものの中にある原因がある」という言い方に変更すればよい)。

次に、選言については、英語で言えばorの関係で二つあるもののいずれかが集合の中に含まれる、という意味であり、これも何ら難しいことではない。


3.応用パターンとして否定の概念
但し、話を難しくするのが、「否定」が入ってきたときであろう(さらに4番目の裏や待遇が入ると、難しい論理テストになる)。ここは話を始めると長くなるので「論理トレーニング」に譲るが、本質的な部分はすべて集合の概念で事足りる。つまり、何が否定されているのか、全体から否定されたものを除いたものは何か、ということを(言葉の意味に惑わされずに)クリアにしていくことが必要(だが、実際にやるのは難しい)。


4.「逆」「裏」「対偶」による応用
さらにこんがらかるのは「逆」「裏」「対偶」の概念だろう。ある主張が妥当ならばその対偶だけ妥当である、という基本さえ押さえておけばよいのが原則である。実際に私たちが遭遇するのは、ある主張を逆や裏をたくみに活用しながら展開していく場面だろう。しかし、おかしいとはわかっていながらそのおかしさを指摘できない。

本来なら、このような場面での対処法があるとよいのだが、「論理トレーニング」も含め、より複雑な文章(仮言、選言等も加わった主張)の逆・裏・対偶を考えさせるという、半ばパズルっぽいことに主眼が置かれがちなのが残念である。まあ、複雑な主張の逆・裏・対偶が理解できれば、上記のような場面でも何らかの指摘が可能になるのかもしれない。


以上非常にあっさりと論理関係を最低限構成する要素について概観した。日常的には1〜4までを押さえておけば、ほぼ論理関係は把握することが可能なのではないだろうか。


注:なお、本エントリーの三段論法の表記及び英語での表現については、

議論法―探求と弁論 (比較社会文化叢書 (3))

議論法―探求と弁論 (比較社会文化叢書 (3))

によった。