前提とは(2)
私たちが何気なく使っている「前提」という言葉。普段は何気なく使えばよいのだろうが、考える場面においては前提という言葉の定義が違うことで話がかみ合わなくなる。では、前提とはどのような意味で使われるのかを見ていきたい。底本は
- 作者: アントムソン,Anne Thomson,斎藤浩文,小口裕史
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2008/01/01
- メディア: 単行本
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である。なお、本書では前提(assumption)を「仮定」と訳出しているが、このブログでは前提と見ることにする(あとがきにもどう訳出するか迷ったとの記述もあるし、文意から見て前提と訳出するのも間違いではないだろう)。
まず、前提(仮定)とは、「すでに認められているが述べられていないことがら」としている。その上で、本書では前提の種類は3つあるとしている。
1.基本理由の背後にある前提
2.述べられていない理由ないし結論としての前提
3.中間結論として働く前提
本文で3は明示されていないが、演習問題に3を識別させる問題があるので、これも一つの類型としてよいだろう。
各類型について見ていこう。
1.基本理由の背後にある前提
これが、一般的に言われる「隠れた前提」であろう。ある人が当然のように根拠と思っているものが、他の人にとってはそうでないことが多い。これは、ある人が根拠と思っていることが主張をサポートするのに妥当かどうか、ということが「隠れた前提」となっているパターンである。本書の例を題材にすれば、
喫煙が肺がんと心臓病の原因となることはみんな知っているはずなのに、住民の3分の1が喫煙しているということは、喫煙の危険性を知ることだけでは、喫煙をやめさせるのに十分でない。
という主張は、「喫煙が肺がんと心臓病の原因となることはみんな知っている」ということから「喫煙の危険性を知ることだけでは、喫煙をやめさせるのに十分でない」という主張を導いているが、両者が本当につながるのかが明示されていない。人によっては「知っている」レベルが問題なのではないか、と考えるのではないか。にも関わらず、根拠として使っているのは、「このような情報を知っていれば、喫煙が危険であることを真であると受け止める」ということを暗黙のうちに理解している、と読める。これが隠れた前提の一つのパターンである。
以上が、本書での説明である。これは、「自分が使っている根拠が妥当であることを証明する」ための前提がある、ということに他ならない。
2.述べられていない理由ないし結論としての前提
これは、自分の主張に「飛び」がある場合に、それを埋めるような前提である。本書の題材を例にとれば、
都市人口の増加が食料需要を増大させ、農家では労働軽減のための技術を導入した。さらに都市における居住人口が増大したことを考えると、米国の農業従事者は政治的影響力を失った。
という主張は、「都市人口の増加が食料需要を増加させた」「農家では労働軽減のための技術を導入した」「都市における居住人口が増大した」という根拠から成り立っているが、ここには暗黙の了解として「都市と農業従事者の人口構成に変化が生じている」こと、さらに「ある層の政治的影響力はその層の人口構成に依存する」という前提がある。これが隠れた前提の一つのパターンである。
というのが、本書の題材である。これはある意味、使っている根拠そのものが妥当かどうか、というよりも、「それが根拠として機能するかどうかを説明する」ための前提であろう。
これはある意味、三段論法の大前提に近いものである。三段論法の大前提は、主張と根拠をつなぐようなものともとれる。例えば、「彼女は髪を切ったから失恋したのだろう」といういささか古い主張は「彼女が髪を切った」「彼女が失恋した」という二つをつなぐものがないと妥当とはいえない。つまり「髪を切った人は失恋した」という大前提が必要になる。このような大前提がここに該当するのである。
ここでは、1と違って根拠として妥当かどうかは説明されていない。ただ、ある主張を導く根拠として使えるかどうかを説明する必要があって、それを「隠れた前提」としている。
3の中間結論については、正直あまり隠れた前提としてことさら強調する必要はないだろう。要は根拠から導きかれる主張を丁寧につなげていけば、このようなものが言われていない、ということを「隠れた前提」と言っているわけだが、それは暗黙の、というよりも流れ的に除外しているパターンが多いから、省略されてクリティカルな問題となることは少ない。だから、本文ではあえて項目立てしなかったのだろうか。
以上から、隠れた前提に二つのパターンがある、と結論づけられそうだが、本書の例題を見ていくと、さらにもう一つの類型があることに気づく。それは別エントリーで。