[コミュニケーション][シナリオ構想]受け手を念頭に置いたコミュニケーションの設計

前回のエントリーでは、「理解の秘密」に書かれていたコミュニケーションの改善点を、問題点と対照させながら整理してみた。ただ、問題点と比較してみると、どうもコインの裏返し的なものが多く、もう少し工夫の余地がありそうである。本エントリーでは、手前味噌になるが拙著「シナリオ構想力」の内容を敷衍しながらあがった問題点をどのような流れで改善していくとよいのかを考えていきたい。

まず、前回整理したものを再掲してみる。
<聞く準備ができていない>
・メッセージの含まれる環境を説明する
・伝える内容そのものの前に、その必要性を共有する

<聞いてもわからない>
・翻訳の技術をコミュニケーションに適用する
・抽象的なコンセプトを具体的な記述に置き換える
・伝えようとしていることを常に二割削減できないか模索する

<納得・行動につながらない>
・メッセージの形式でなく、その意図を中心に考える
・受け手に選択の余地を残すような表現とする
・自分の伝えやすいチャネルでなく、相手が行動に移せるチャネルを選択する
・自分の伝えやすい順序ではなく、相手の理解の手順に沿って説明する

<腹落ちしない>
・メッセージが損なわれずに相手に伝わっているか確認する
・質問の技術を磨く
・聴く力を身につける

これらを見ていくと、「受け手」が決定されることによって、「コンテキスト」の共有度合いがわかり、それによって最適な「内容」「チャネル」という構造になっていることがわかる。つまり、順序としてはまず「受け手」の理解から始まり、その状態に応じてコンテキストを把握、内容とチャネルの決定につながっていく。

これは考えてみれば自然なことである。例えば、「翻訳の技術を活用」と言っても、どの程度翻訳するのがよいかは受け手によるし、コンテキストも関与する。最終形である「内容」をどの「チャネル」で伝えるかはコンテキストや受け手によってくるのだろう。

となると、上記の前にこのようなものが入るのが望ましい。
<受け手を理解する>
・受け手はどのようなタイプかを把握する(性格面)
・受け手の知識レベル、理解度を把握する
・受け手が伝えようとしていることに対してどの程度興味をもつかを把握する

<コンテキストを把握する>
・どこまでの知識を共有できているかを把握する
・どのような知識は共有できていないかを把握する
・伝えようとしている内容に対するレディネス(準備度合い)を把握する

(以降は上述)

今回追加した内容については、拙著「シナリオ構想力」の第六章にも形を変えて掲載されている。


このような形で進めていけば、概ね自分の伝えたいことは伝わるだろう(ここで概ねと書いたのは、コミュニケーションは相手あってのことであり、相手次第ではどのような努力をしても伝わらないという現実を考慮してのもの)。但し、自分の伝えたい内容はいつ決まるのか、どのように伝えたい内容を作り出せばよいか、という点はここでは触れられていない。

伝える内容が決まるタイミングは、場面によって異なるだろう。大きくは、まず伝えなければと思うことがぽっと頭に浮かぶ場合と、何かお題があってそのお題に対する答えを考え出す場合に大別される。前者であればコミュニケーションの仕方を考える前に内容が決まるだろうし、後者の場合はコミュニケーションの仕方を考えながら(もしくは考えた後)決まるのだろう。つまり、伝える内容を決める(決まる)タイミングはいつでもよい、ということだ。但し、重要なのは、伝えたいことが自分の中でわかったら、それを相手に伝わりやすいように言い換えることが重要、ということだろう。よく、論理思考の研修等で「伝える技術」と称するものは、その内容の精緻化に偏りがちだが、内容そのものの精緻化だけでなく、受け手に沿った言い換えも行うべきだし、それがある意味コミュニケーションに該当するのではないか。

ということで、コミュニケーションにおいては、内容を考え出すこととそれを伝えるためにいろいろと考えることとは別物、ということになってきたが、内容そのものを伝わりやすいフォーマットに一般化することは可能だ。それが「理解の秘密」の第八章で書かれている。次回は内容そのものについて考えていきたい。


※今回の参考書籍

理解の秘密―マジカル・インストラクション (BOOKS IN・FORM Special)

理解の秘密―マジカル・インストラクション (BOOKS IN・FORM Special)

シナリオ構想力 実践講座

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