発想のための論理思考術
- 作者: 野内良三
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2010/01/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「発想のための論理思考術」を読了した。いわゆる「論理学」と「ロジカルシンキング」をつなぐ試みは、結構な数の本で行われていて、結構な確率で失敗していると思うのですが、本書はかなり「いい線」を行っていると感じます。
構成としては、古典的な命題論理の基礎から始まり、演繹的推論(三段論法)、因果、アブダクション、帰納、類比などの推論を扱い、最後は東洋における論理(個人的には「受け容れる論理」と読んだ)に至っています。特に、最後の部分は野心的な試みだと感じます。
どの推論形態にも発想のヒントがあると同時に、その推論に頼る危険性もある、ということが触れられています。単に推論形態の解説だけにとどまらず、実際にどういう使い道があるのかまで突っ込んでいるように感じます。
興味をもった点はいろいろありますが、その中でも特に三段論法の箇所に注目したいと思います。
本書では、三段論法(定言三段論法のこと)について、トゥールミンのモデルをもとに解説しています。トゥールミンのモデルは主張の構造を三段論法的に理解するのに、とてもわかりやすいものだと考えています。そういえば、7〜8年ほど前、トゥールミン・モデルをもとにした議論の仕方について論文を書いたことを思い出します。
このモデルは、図にしないとどういうものか理解するのは難しいですが、要は主張と根拠、そして両者をつなぐ理由付け(論拠と呼ぶ本もある)から主張は構成されている、というのが基本的な形です。このモデルを理解すると、三段論法もかなり理解しやすくなるのではないか、と考えています(というか、自分がそうでした)。
本書でも、同様の説明をしていますが、このモデルをもとに、三段論法の「欠陥」を指摘しています。それは、主張と根拠をつなぐ「理由付け」の内容次第では、どんな主張も「正しい」主張になってしまう危険性がある、というものです。本書では、次のような例で、その危険性について指摘しています。
彼は選挙民のためを思って活動する政治家である。選挙民のためを思って活動する政治家はよい政治家である。ゆえに彼はよい政治家である。(92ページ)
この推論は、「選挙民のためを思って活動する政治家はよい政治家である」という箇所に疑問がもたれるにも関わらず、推論形態としては妥当なために、妥当な推論としてだまされる恐れがある、というのです。
この指摘には、少し疑問を感じます。もちろん、三段論法の形式だけにのっとれば、妥当でない結論も導けてしまうのは事実として残りますが、それは使っている言葉の意味上の問題であって、決して推論形態としての問題ではないのです。それを、「三段論法の危険性」と言われても困るなあ、というのが個人的な感想です。
むしろ、トゥールミンのモデルのような形で、主張を可視化し、個々のパーツの意味の妥当性を問う作業さえ行えばよいのではないでしょうか。その意味では、すべての主張は三段論法的に分解し、個々のパーツの妥当性を問うことで、推論形態上の問題と、語用面での問題の分析が可能になるのではないか、とすら思っています。
と、書いていて、改めて議論の仕方について考えてみたくなりました。