「わざ」習得のメソッドは企業の人材開発に応用可能か?(1)

これまで「わざ」の習得の特徴について書き連ねてきた。これを私が生業とする企業の人材開発にどのように応用できるだろうか? その前に、もう一度「わざ」習得の特徴を企業の人材開発に照らし合わせてみたい。

そのためには、「わざ」習得と対置できる何かが必要だ。それはおそらく「段階を踏んだ教育」ということになるだろう。あるスキルや能力を身につける場合、学校教育をはじめとして私たちは身につけたいスキルや能力を細分化し、細分化したものを段階的に習得するやり方を行っている。まずは、こうした人材開発が適当な場面を考えてみる。

こうした段階を踏んだ育成の一番のメリットは「効率的」だというところにある。より多くの人材をより短期間に、さらに一定のレベルまで育成するには、わざを習得するやり方よりもよほど適しているだろう。となると、段階を踏んで習得するとよさそうなものとして、以下のようなものがあげられる。
 ・多くの社員共通に必要とされるもの
 ・最低限のレベルが担保できればよいもの
代表的なものはマナーだろうか。さすがにマナーの悪い社員がいるのはまずいが、「この人のマナーはものすごい」というレベルにする必要もない。その意味で言えば、語学などもこの範疇にあてはまる。(もちろん、マナーや語学も、その職務の優位性の源泉となるものなら、この限りではない)

一方、「わざ」的な習得でのメリットはなんだろうか? それは「突き抜けた」人材を作り上げることができるという点、そして実践にそのまま活かせるだろう。時間はかかるし、全員がものすごいレベルになれるかと言えばそういうわけではない。ただ、一人でも「突き抜けた」レベルの人材を生み出すことができれば御の字というものだと、「わざ」的な習得は威力を発揮しそうだ。となると、効果を発揮すると考えられるのは、次のような場面だろう。
 ・選抜された人材に対して何らか特殊なわざを身につけさせる
 ・非常に専門性の高い業務を身につける
後者はいわゆる「職人」であろう。社内にいる名工のような存在を作り上げるには、段階を踏んだトレーニングでそこそこの人材を育てる以上に、その世界にどっぷりつかるような環境を用意した方がよい。悩ましいのは前者だ。ふと思いつくのは「経営者を育てるのに、わざ的な育成がよさそう」というものだが、これはかなり安易な発想な気がする。

というのは、わざ的な育成を成功させるには、いくつか条件があるからだ。