社会学的想像力を刺激する方法

社会学的想像力

社会学的想像力

1965年出版という、少し古めかしい一冊。大半は当時の社会学のアプローチの批判に割かれていて、いささか気の滅入るところもあるが、付録としてつけられた「知的職人論」には、今でも(今だからこそ)重要な要素が含まれているような気がする。


その中に、「社会学的想像力を刺激する方法」として、7つの考え方が掲載されている。列挙してみよう。

1.ファイルの再編
いわゆる従来から丁寧に記録をとり、それを混ぜ合わせ選別すること。このアプローチ自体は「知的生産の技術」や「発想法」などを通じて同じような時期に紹介されているので、特に新鮮味はないか。
しかし、ここからが結構示唆深い。

2.言葉に注意深くなる
 「用語に対して自由な態度をとる」との記述もある。要はファイル(記録)をつらつら眺めて何か思いついても、そこで使った言葉を固定観念的に使わない、ということ。
 これは結構示唆深い。私たちは、思いついた言葉に自然に引きずられてしまうことがある。それを戒めたものだろう。

3.一般的観念を思いついたら類型化する
 要はざっくりとらえたままにしない、ということか。いくつかに分類してみると、また見えてくるものがある。KJ法等ではカードを統合していく作業だけが重視されているようだが、そこからあえて再度分類してみるというのも、新たな発見があるのだろう。
 ここで、優れた類型として、「分類基準がはっきりしており体系的」とある。非常にわかりやすい定義だ。
 さらに、ここでは分類として相関分類をする重要性を説いている。これは次の4にもつながる話だろう。

4.極端な形態を考える
 本書では、「いま直接関心をもっていることの反対物を想定する」ともある。これにより、より大きな観点で比較することが可能になる。極端な例を持ち出すことは、それが強弁の材料となるのはよくないものの、想像力をたくましくするにはもっとも適したやり方であろう。

5.相関分類においては、簡潔を期するためにYes/Noという方式でやってみる
 3と4で述べたことが、5でまとまったという印象だ。
類型化(特に相関分類)し、その比較対象として極端な例を持ち出す。この組み合わせで思考は深まっていくのだが、あまりざっくりと比較しすぎると「全然違うね」という漠然とした印象レベルで終わってしまう。そこでYes/Noという方式にするのだが、Yes/Noにするためには、相当比較するものを絞り込まなければならない。ミルズは暗にそこまで概念を絞り込んで比較すること必要性を訴えているのだろう。

6.取り組んでいる問題が何であっても、素材を比較できるように把握してみる
 何か個人的には先祖がえりしてしまった印象だが、3と4の組み合わせが反映されたものがこの6で訴えたいことなのだろう。

7.テーマとトピックを区別する
 最後になって、いきなり違う話になった。想像力の解放というのが6までの話だとしたら、7は一冊の本を総合的に組み立てる点に関連するものだ。しかし、まったく別の話に関するものが一つだけというのは、バランスが悪い。
 ここでのトピックとは小主題、テーマとは、より大きな概念のこと。これまた言われてみれば当たり前の話だが、両者を混同してしまうのは、日常生活で非常によくあることだったりする。


最後にざっくりまとめてしまうのはいかがなものかとも思うが、想像力を解放するには、丁寧に情報を集め、それを様々な角度から捉える、そして比較しながら組み立てていくという地道な作業が必要になるということなのだろう。