Return to Forever / Chick Corea

リターン・トゥ・フォーエヴァー

リターン・トゥ・フォーエヴァー

先週のキース・ジャレット「ケルン・コンサート」と同時に購入したのがこの一枚。それにしても、たまたま購入した二枚が二枚ともその後の音楽ライフに大きな影響を与えることになるとは珍しい。

二枚のうち、どちらかといえば、こちらの方がとっつきやすい。アルバム・タイトルのReturn to Foreverのやや不気味なイントロを乗り越えれば、意外なほど爽快なメロディーが流れる。そして落ち着きのあるChrystal Silence、ポップなWhat Game Shall we play today(長いタイトルだな)と続く。そして最後はラテンの雰囲気満載のSometime AgoーLa Fiestaという4曲構成だ。

これだけ見れば、単に聞きやすいアルバムで終わってしまうのだが、ある日ぼけっとこのCDを聞いていて、La Fiestaのとりこになってしまった。以来、この音を聞くために何枚ものチックのCDを購入した。しかし、同じものは得られない。ということで、一時期はLa Fiestaが収録されているCDに的を絞って購入を繰り返したものだ。それでもしっくりこない。

結局何がこんなにひきつけたのか。かなりマニアックなポイントになるかもしれないが、18分が経過した頃、再び最初の主題に戻ろうとしている時の、スタンリー・クラークのベースの低音(と呼ぶのかどうかわからないが)の存在感にしびれてしまったのだ。当然ゲイリー・バートンとのデュオでこの低音は期待できない(なんといってもビブラムフォンだから)し、それはハービー・ハンコックとのデュオも同じだ(どちらもピアノだし)。ピアノトリオでやっているのでも、そこまでベースが押し出していない。

スタンリー・クラークはその後もReturn to Foreverでベースをやっているから、そこでもと期待したのだが、どうも期待どおりのものは得られなかった。

ということで、ある日から、チックの音源を追うのはやめて、この一枚(というか、あの一瞬)は唯一無二の存在なのだ、と思うことにした。まあ、この一瞬がなくても、チックのピアノは軽快で楽しい雰囲気にさせるし、彼のピアノというよりバンドとしての完成度の高さは、どのユニットを見ても実感できる。その意味では、チック・コリアの音楽はある意味安心して聴ける(これがいい評価なのか悪い評価なのかはおいておく)。

この一枚(というか、この一枚の中のLa Fiestaという曲)が別格なのだ。何年も聴いて、いまだにぞくぞくするような曲はめったにないが、この曲はまさにそれにあてはまる(今この記事を書いていても、少しぞくぞくする)。