ポールソン回顧録

ポールソン回顧録

ポールソン回顧録

昨日ようやく読了した。
読んでまず感じるのが、「ポールソンという人は率直だ」ということだった。ともすれば、金融危機に対応する当事者としてあまり表沙汰にしたくないことや、見栄えの悪い意思決定のプロセスなどあるだろうに、本書を読む限りはそれらも可能な限りオープンにしている。そして、自らの意思決定についても、冷静に「失敗だった」「最善だったと思う」と評価している。こうした率直な姿勢は、読む人に説得力を与える効果があるようだ。私のようなあまり金融危機について詳しくない人間は、簡単にポールソンの言葉に納得してしまった。

同時に感じるのは「政治」の世界だ。もちろん経済の動きは政治の影響を大きく受ける。しかし、実話レベルの話で、本書ほど政治家の思惑と経済政策が結び付けられた姿を見せている書籍は少ないのではないか。それも、個人的なものから国家レベルまで、様々な思惑が錯綜する。こんな世界に足を踏み入れたら、相当大変だというのが手に取るようにわかる。

三番目に感じるのが、あの「ブッシュ」についてのことだ。私の知る限り、彼についていい評判を聞いたことはないし、自分自身ブッシュをまったく評価していなかった。しかし、本書で描かれるブッシュは、思いやりがあり、謙虚な大統領だ。うーむ、もし本書の通りだとすれば、ブッシュという人はよほど自分の見せ方が下手なのだろう。しかし、そんな人がなぜ米国の大統領まで上り詰めることができたのか。

但し、リーマンへの対応はやや不思議に思える。他の金融機関に対する粘り強さと比べると、リーマンに対してはかなりあっさりとした対応をして、そのまま破産させてしまったような印象を受ける。本人は「買い手がいなかったから」と一蹴するが、他の金融機関に対してはそんな一言で終わりにすまいという意志が感じられた。なのにリーマンにはそれがなかった。本書の解説でも触れられていたが、謎の残る部分だ。

かなりのボリュームではあったが、結構スムーズに読めた。それはなるべく難しいことを言わずに、シンプルに当時の状況を説明しているからだろう。ポールソンという人はこうしたシンプルに考えを伝える名人だということもよくわかった。