特性を活用する−「ウェブ時代をゆく」
特性という概念を活用していくと、思考の整理が進む例を梅田望夫著「ウェブ時代をゆく」の第四章「ロールモデル思考法」を例にとって考えてみよう。
「ロールモデル思考」は、本書における一つの肝だ、という記述をどこかで読んだことがあるが、それにしては題材から結論まであっさり行き過ぎて、いまいち自分に活用するのが難しいと感じる。
筆者は、シャーロック・ホームズ(私立探偵)と沢木耕太郎(ルポライター)をロールモデルとして、そこから
ある専門性が人から頼りにされていて、人からの依頼で何かが始まり急に忙しくなるが、依頼がないときは徹底的に暇であること(私立探偵)
「見知らぬ土地に出かけてたくさんの見知らぬ人に聞き続ける行為」と「その結果を構造化しようと苦吟する過程で発揮する創造性のようなもの」(ルポライター)
という自分の志向性や得意分野をまとめあげていった。
このくだり自体は読んでいて、「なるほど」と納得感は高いが、かといって自分のロールモデルを見つけてすぐにまとめることができるかといえば難しいだろう。その部分を少し丁寧に書くだけで、十分自分に引き寄せることは可能なのではないだろうか。その際に大きな役割を果たすのが「特性」である。
例えば、私立探偵やルポライターという職業をロールモデルにして自分の志向性を明らかにしようとするのなら、まずは職業のもつ特性、つまり職業はどのような表現が可能か、ということを考えてみる。すると、
- 仕事内容
- 報酬額
- 報酬のもらい方
- 勤務時間
- 仕事によって提供できる付加価値
- 仕事に付随する危険度
- 仕事で必要とされる能力
- 付き合うことになる人や社会とその多様性などが浮かび上がってくる。これらの特性に、私立探偵なりルポライターなりはどう表現されるのかを埋めてゆけばよい。想像の範囲内、かつ筆者が志向性としてまとめあげた特性を中心に埋めると、以下のようになるだろうか。
特性 | 私立探偵 | ルポライター |
---|---|---|
仕事内容 | 人が知りたいものを探す | 見知らぬ情報を仕入れて文章化する |
報酬のもらい方 | 依頼ベース | 作品ベース |
勤務時間 | フリー | フリー |
付加価値 | 埋もれている(見えていない)情報を明示する | 人が興味をもちそうな情報を文章化する |
危険度 | 高い | 高い |
この表を見れば、筆者のようなまとめ方もできるし、例えば「少々の危険を冒してでも、人が知りたいと思うものを探し出して価値のあるものに仕立て上げることを、案件ベースで行えるような仕事」についての志向性が高い、ともまとめられるだろう。
もちろん、特性の幅を広げる、例えば上記で洗い出した特性のうち「付き合うことになる人や社会とその多様性」を加えれば、「自分の興味をもつ対象に関連する社会と広く浅く」ということも筆者の志向性に合致するのかもしれない。
ここで私たちが学ぶべきは、別に私立探偵やルポライターの特性を詳しく知ることではなく、このように自分が興味をもった、もしくはお手本と思える仕事や人の特性を洗い出して一覧化し、そのうちどこが自分の琴線に響くのか、ということを丁寧に見ることだろう。