発見力における「比較」

昨日の続きで、この本を題材にしてみる。

本書の中で重要な概念とされているのは、比較である。私も比較という技術は頭を使うのにとても有効な技術だと考えていて、「シナリオ構想力」の本の中でも少し触れている。ただ、本書で触れている比較と見るべきポイントが違っているようだ(どちらがいいとか悪いという話ではなく、単に違っているだけである)。それは、

 発見力養成講座:比較対象をどうやって見つけるのか
 シナリオ構想力:見つけた比較対象をどうやって比較するのか

という点にそれぞれ重きが置かれている点が違いだろう。このエントリーでは比較対象の見つけ方を自分なりにまとめてみる。

本書では、比較を軸となるもの(何か発見したいと感じる対象)とそうでないものの相違点を明らかにすること、としている。ここで重要なのは軸になるものではなく、そうでないものをどうやって見つけ出すかということである。本書では大きく二つの手法を紹介している。

1.定常と異常
 一つのやり方として、軸となるものは定常的に自分の中で把握できているものとして、その定常値から外れた場合に比較を行う、ということがあげられる。本書で触れられている日経月曜朝刊にある景気指標を押さえるのは、まさに定常状態を把握することに他ならず、その意図は異常値が発生したときに比較できるような準備をしておくことだろう。

その意味で定点観測による定常値つくりは欠かせない。新幹線のグリーン車も定点観測によって比較することが始めて可能になり、景気とは別の「シニア層の利用が増加」という発見につながったのである。

2.軸となるものと異なる性質のものとの比較
 もう一つのやり方としては、よく活用されるものだが比較したい対象があったとした場合、一見関連が薄かったり性質的に異なるものをあげて比較する、ということがあげられる。ただ、このやり方については本書ではほとんど触れられていない。というか、出てくることは出てくるが、結果として比較しましたという姿しか見ることができない。例えば、小金井カントリークラブの会員権相場で日本の景気が見える、というのは一見関連のあまりなさそうな二つを比較して、両者の共通点から小金井カントリークラブが景気の代替指標として適切、という発見をしたのだろう。だが、なぜ小金井カントリークラブが出てきたのか、については結構あっさりとしている。

おそらく、コツの一つとしては、関連はなさそうだが、何らか共通する特性があるものを探す、ということがあげられる。上述の小金井カントリークラブと景気も、「支出金額」という特性は両者ともある。そこで比較をすることによって共通点を発見することが可能になったのだろう。

以前のエントリーでも触れたが、この比較のもっとも洗練された姿が、加藤周一の「日本文学史序説」である。空海道元竹取物語伊勢物語など、時系列やジャンルが違うものを比較させることによって、それぞれの特徴をくっきり浮かび上がらせることに成功している。

こうした比較すべきものが見つかれば、あとは比較するだけとなる。ここでの考え方は「シナリオ構想力」でも触れたとおり、特性で比較するということである。比較対象をそれぞれ特性で表現し、各特性を比較しながら共通点・相違点を明らかにしていく。本書でもこのやり方はしっかり行われている。