アイデアの力


アイデアのちから

アイデアのちから

昨年の11月に発売されたのでやや出遅れ感もあるが、いろいろと考えさせられる本である。

内容はタイトルとはやや縁遠い「アイデアを伝える相手の記憶に焼き付ける方法」。どちらかといえば「伝え方」の本で、アイデアを生み出す本ではない。

イデアを記憶に焼き付けるために、筆者はSUCCESSというフレームワークを提唱している。それにしても、米国人?はこのようなフレームワークを作るのがうまい。重要な要素の頭文字を組み合わせて、意味ある単語でフレームワークを表現する技術にはほれぼれする。この種のフレームワークで有名なものとして目標設定のSMARTがある。*1

さて、SUCCESSとは、それぞれ
 S:Simple(単純)
 U:Unexpected(意外性がある)
 C:Concrete(具体性がある)
 C:Credible(信頼性がある)
 E:Emotional(感情に訴える)
 S:Story(物語性)
というもの。本書では、それぞれの要素について、これでもかというくらい事例をあげて説明している。


単純にこのフレームワークで理解するのも有益だが、もう少し丁寧に本書を見ていくと、またいろいろなことが見えてくる。まず上記の6要素のいくつかを補足しておこう。


●S:Simple(単純)
 シンプル、単純というと、言いたいことをシンプルな表現で、という意味と感じるが、本書で言いたいのは、表現の話以上に「優先順位をつける」ということ。その上で中身を凝縮した表現とすることを訴えている。
 多分、順序としては「優先順位をつける」ということだろう。私たちは一度にいろいろなことを言おうとしすぎる。そうすると相手の理解は落ちるので、結果として「記憶に残る」には至らない。まずは、「何を伝えるのか」を決めることが大切だ。


●U:Unexpected(意外性がある)
 ここでの目的は「相手の関心をひいて、それをつなぎとめる」ということ。単に意外な話を面白おかしくするのではない。そのためには、何が意外に感じるかということと、その意外性を持続したり発展できるかが重要になる。


●E:Emotional(感情に訴える)
 ここでの目的は「心にかけてもらう」ということ。何も感情を揺さぶる必要はない。心にかけるには「聞いている相手と話との関連をつける」ことにつきる。それは利益的側面もあれば、本人のアイデンティティに関連することもあるだろう。


●S:Story(物語性がある)
 ここでの目的は「行動を起こしてもらう」こと。そのためにはどんな風に行動を起こせばよいかがわからなければならないし、行動を起こすためのエネルギーが充満されないといけない。物語はHowとモチベーション向上のために使う。


その上で、6つの要素を見てみると、大きく二つの要素に分けられていることがわかる。
一つは、伝える内容という観点からのもので、
 S:Simple(単純)
 C:Concrete(具体性がある)
 C:Credible(信頼性がある)
が該当する。もう一つは、相手の意識・行動変容を促すという観点からのもので、
 U:Unexpected(意外性がある)
 E:Emotional(感情に訴える)
 S:Story(物語性)
が該当する。


伝える内容の3つを見ると、Simpleでまず話すべき内容を絞り、その妥当性・納得性を二つのCで強固なものにする、ということだ。一方、相手の意識・行動変容の3つを見ると、これは相手の意識・行動変容プロセスに沿ったものになっている。まず、Unexpectdで興味をひき、Emotionalで行動の必要性を理解する、最後に行動に変えるためにStoryを活用するというものだ。マーケティングでよくつかわれるAIDMAモデル*2に近い。


こうして見ていくと、自分の伝えたいことを説明するためのポイントが見えてくる。まとめてみよう。

  1. 伝えるべき内容と相手をどのように行動に移してもらうか、という二つの観点から伝え方を考える必要がある
  2. 最初の一歩は「自分は何を伝えたいか」ということ。それなくして、残りのことを考えても本末転倒
  3. 内容の具体性や信頼性だけを追及してもだめ。それが相手の意識や行動変容にどのように影響するかを考える

*1:S:Specific、M:Mesurable、A:Agreeable、R:Reality、T:Time Boundedの略。一部異論はある

*2:A:Attention、I:Interest、D:Desire、M:Motive、A:Action