プレジデント誌の特集−「年収1500万円社員vs400万」630人分析!−を分析してみる。
前回はプレジデント誌の特集「年収1500万円社員vs400万」630人分析!」で行われている分析の問題点について指摘しました。「じゃあ、あんただったらどんな分析をするんだよ?」そうですね、文句ばかりではいけません。自分だったらぱっと思いつくのは次の3つくらいでしょうか。
- やってみたい分析1
これは紙面のデータだけではわかりませんが、可能だったらまずは、各人毎のサブ項目(見出しで出ている項目「手帳の選び方」「スケジューリングのコツ」等)別での結果を出しますね。つまり、こんな一覧表を作ります。
名前 | 手帳の選び方 | 目標の立て方 | スケジューリング | ・・・ |
---|---|---|---|---|
A氏 | 3.5 | 3.8 | 4.3 | ・・・ |
B氏 | 4.0 | 4.5 | 4.1 | ・・・ |
(当てはまるを5、以下4,3,2,1と得点化してサブ項目を平均)
そして、サブ項目の平均点別の分布を見てみたいですね。
この表を作る理由は、「同じ年収1500万円以上(400万円台)でも、この質問項目のことをやっている人とやっていない人は明確にわかれるだろう」という仮説があるから。もし二峰性があれば、二つのカテゴリーに分けて、個々の質問項目での「あてはまる度合い」を見ていけば、「誰もが実行しているもの」「人によって実行しているかどうかわかれるもの」という風にカテゴライズできるはず。そうすればしめたものです。何が1500万円台のスタンダードなのか、何がまだスタンダードになっていないのかを把握することができるから。
もちろん、二峰性が見られなかったら、上記の仮説とはおさらばで、普通に見ていくのでしょう(他にも職種や業種などの属性があったら同様のことをしたいけど、趣味の世界になりがちなのでどこまでやるかは要検討)。
- やってみたい分析2
もう一つやりたいのは、全部の項目の「あてはまる」「あてはまらない」の違いを比較するということ。本誌では、1500万円以上と400万円台の違いを「○倍」や「○ポイント」をごっちゃにしていたけど、ここは両方出しておかないと、かなりミスリードになる。つまり、こんなイメージでしょうか。
質問項目 | 1500万は400万の何倍? | 両者の差は何ポイント? |
---|---|---|
同じタイプの手帳を続けてつかっている | 1.4倍 | 16.6ポイント |
同型の手帳を来年も使う | 1.6倍 | 20.0ポイント |
それから注目したいのは「あてはまらない」の差。「どちらともいえない」も「どちらかというとあてはまらない」も、質問されたことをまったくやっていないわけではありません。では、なぜ「あてはまる」を選ばないかというと、主に二つの理由からでしょう。
・たまにしかやっていない
・なんとなくやっている程度で、「やっている」というのはおこがましい
つまり、「あてはまる」から「どちらかというとあてはまらない」の差は「しっかりやっているかどうか」を測るもので、「やっている」か「やっていない」かを把握するのに最も重要なのは「あてはまらない」の比率と見ることができます。その差の大きいものは有意な差があると判断してもよいのではないでしょうか。
この点から見ると、「年間目標を立てている」という項目に対しては、かなり違った見え方ができます。ちなみに、両者の数値は
年収 | あてはまる | ややあてはまる | どちらでもない | ややあてはまらない | あてはまらない |
---|---|---|---|---|---|
1500万以上 | 18.6 | 26.4 | 24.1 | 14.5 | 16.4 |
400万台 | 5.5 | 22.5 | 31.8 | 19.6 | 20.6 |
です。
単に「あてはまる」だけ見れば、「1500万円以上の人が3倍立てている」から「1500万円以上の人がやっている」という結論になるでしょう。しかし、「あてはまらない」比率を見る限りは大きな違いはない(4ポイント程度)。従い、
「400万円の人も年間目標を立てているが、しっかりとはやっていない」
という結論になるでしょう。個人的には、こちらの方が実感値にもあった結果だと思いますが。
このように、5段階評価を表面的に見るのではなく、その意味を探ると結構面白いことが言えるでしょう。そのためには、すべての項目の5段階評価の結果が欲しいところです(現状では、半分以上の質問項目が「あてはまる」「あてはまらない」の二つしか表示せず)。
- やってみたい分析3
最後に、紙面のデータだけでできそうなことを。それは、サブ項目内での傾向を比較するというものです。「情報収集と人脈」というサブ項目での結果を見てみましょう。
質問項目 | 1500万円以上 | 400万円台 |
---|---|---|
1.雑誌・書籍代に月一万円以上使っている | 32.5% | 16.1% |
2.勉強会など・・・出会える場に参加している | 30.5% | 19.3% |
3.iPodなど新しいIT危機にアプローチしている | 26.7% | 22.2% |
4.海外メディアから情報収集している | 29.9% | 12.2% |
(どれも「あてはまる」「ややあてはまる」に該当する割合)
本誌では、個別に「1500万円以上の人は積極的に取り組んでいる」となっていますが、これらの項目を横並べすれば、また違った見え方ができます。ここで見えてくるのは(2の勉強会は微妙な位置なので、解釈による差が出てきますが)、1雑誌・書籍と4海外メディアでは、しっかりと差がついている一方、3情報機器はそう大差がありません。つまり、
「情報の入手・整理方法(IT機器のこと)への関心より、情報の中身への関心の持ち方に差がある」
と結論づけることができます。
こんな風に分析を進めていけば、年収1500万円以上と400万円台の間に、もっと興味深い傾向が見られるでしょう。それとも、もしかしたらプレジデント誌では当然この程度のことはしていて、本誌には「さわり」しか見せなかったのでしょうか? そうだとしたら、それはそれで相当深くまで考えてますね。
(以下宣伝)
ちなみに・・・・。今回紹介した分析の仕方は、拙著で詳しく解説しています。ご興味のある方は是非一度ご覧ください。
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